その19

 

間に横たわるモノ

 

 

 私達の間に横たわるのは、のぼり、くだり二本の線路。 のぼりが新宿へ、下りが荻窪へ私達を引き離すまで私達は同じこの場所にたたずむ。 

 あなたはやさしい。

 二本の線路の向こうから、微笑んで私を見守っている。 地下鉄の風に前髪をすこし揺らしながら。 いつものように両手を垂らして。

 わたしは少し怖い。

 あなたのその笑顔が、電車の来る音や人の動く気配。 少しのキッカケで消えてしまうような気がして。 すこし怯えてその笑顔を見返す。

 

 くだりの電車が先に来て。 彼を連れ去る。 私の怯えも知らずに、うっすらと笑いながら、小さく手を振って彼が彼のいるべき場所へ戻っていく。

 

 私は、ほっと一息付いたような安堵感とともに、すぅっと「ひとりだ」という恐怖感に取り付かれる。 今まであった視線がココにはもうない。 という事実だけがハッキリと浮かび上がってくる。

周りの空気すら重く体にまとわりついてくるように感じる。 私も私のいるべき場所に帰らなくちゃ。

 そう思ってみるけど。 

 風景が色を無くしているように感じる。 すべてが無彩色になっているような。 猫の目は色を関知できないと言うけれど。 いつも、こういうような風景を見ているのだとしたら・・・寂しくて毎日眠っていたいのも良く分る。 まぁ、猫の寝顔ほど幸せそうなものは無いのだけど。

 

 早く、家に帰ろう。 帰って、猫のように幸せに眠ろう。

 

 幸な眠りについたつもりが、朝方に目を覚まし。 さっきまで見ていた覚えのない夢の為に、さめざめと泣き。 意味のない寂しさを噛み締める。 赤ちゃんが寝起きで泣く理由が分る気がする。 こんなに心細いんだもん、泣くよね。

 

 あの、二本の線路をまたいで、彼のところに行けばこんな思いはしなくて済んだんだろうか? それとも、またいでいっても、同じことだったんだろうか?

 

 答えの無い質問を繰り返す。 眠れないフトンにくるまって。

 

 

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