その59

 

濡れて欲しい  

 

 

 女は濡れるもの。 確かにそうだ。 好きな相手だったら濡れる。 私はそうだ。 

 でも濡れる場所が下半身だけだと思ったら大間違いだ。

 

 あなたの息がかかる首筋や、クチビルだって見えないものでシットリと濡れていく。 あなたのくぐもった声やため息が聞える耳だってひっそりと濡れていく。

 

 冷えてしまった背中に、不意にあなたの体温を感じて。 その温度差に驚いて、夜露がたまるように背中が濡れていく。 移動するあなたの体温で濡れる場所も移動する。 さらさらと水が流れるように移動する。

 

 濡れるのは女だけ。 そうだろうか?

男だって濡れる。 気持ち良さにかまけて、接吻を繰り返せば、あなたの皮膚も私の唾液でヌラヌラと光るし。 気持ち良さにかまけて動けば動くほどあなたの皮膚もしっとりと汗で濡れてくる。

 もてあそび、可愛がれば、私の手の中でゆっくりと湿っていくじゃない。

 

 男だって濡れるじゃない。

楽しい。 もっと濡れて欲しい。 私の手の中で。 私の中で。

 

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