その2

 

ココロノドコカニ  

 

 柔らかそうな、湿った唇の間から、歯並びのメチャクチャな下の歯が見えただけでゾクッとするほど欲情している自分が居て。
 少しだけ緩んだ口角を両手の親指でグッと広げて下の歯並びをジッとのぞき込み舌を差し入れて、その細かい行儀が悪い歯達を舌で愛撫して。

 漏れる息をちょっとでも漏らさないように吸い上げたくて、もっと唇を
密着させて。 吸って、吸って。
 目を見つめて、吸って、吸って、舐めて、なぶって。 
 口が塞がれているせいで、鼻から吐き出される息すらも逃したく無くて、彼が息を吐くタイミングに合わせて、自分の息を鼻から吸って、吸って。
 その時に、一緒に満ちてくる彼の匂いを味わって、もっと、もっと、と息を吸って。

 指が、皮膚が、毛穴が、産毛が、乳首が、全てのパーツが彼に向かって固く尖っていき「もっと、もっと」と、彼を感じようと両手を延ばしている。

 こんなに欲情するのは、彼が、私を言葉で心地よくする事を知っているから。
性的な事が全く無い「会話」で、私の心を泣かせてしまうすべを知っているから。 彼の前で、体を開く前に心を開いて、涙ぐむ準備が私も整っているから。

 性欲が全く関係のない所で、悲しみや、悔しさ以外の感情で、私を泣かせ「ここにこの人と居て本当に良かった」と心から思わせてくれた事実があるから。

 そんなことのできる貴方を敬い、愛し、受け入れ、楽しませる事ができる自分を嬉しく思いながら、抱かれる事ができるから、小さな歯並びにすら欲情している。

 でも・・・

 こころのどこか、すごく静かな場所に。

「なにかのキッカケで、彼の言葉が心に響かなくなったとき、その歯並びにも吐き出される息にも、彼の視線にも、欲情しなくなるときが来る。 だから、だから安心して、今、身を委ねなさい」

 と書かれている事も知っている。

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