その21

 

たわしオヤジ  

 

 赤ちゃんがお母さんのお腹に入る理由は「赤ちゃんが結婚式をヘソ(女性の)の穴から覗くから」と、理解していた小学生の頃。 たしか、3年だったと思う。 もちろんオナニーの存在すら全く知らなかった。

 

 ある日曜日、私はNというクラスメートと2人で校庭に遊びに行った。 小学校の裏口と小学校の敷地内にある幼稚園に挟まれた場所。 そこに「ツキヤマ」があった。 コンクリートで出来た高さ5Mぐらいの小山だ。 トンネルがあって滑り台があって・・・とどこにでもあるような遊び道具。

 そのツキヤマに登って、好きな男の子の名前を叫ぶ! というバカバカしい遊びをしていた。 校庭の隅っこでは他のグループがドッジボールをしている以外、人はほとんどいなかった。

 

 ギャーギャー興奮しながら「だれ?」「先に言え」「お前が先だァー」「じゃ、一緒に叫ぼう」「いーち、にー、さーん!」叫ぼうと息を吸いこんだとき・・・Nが「待って!」と言った。

 「何?」

「なんか・・・あそこ見て」とツキヤマから見える幼稚園脇の小さい植え込みを指差した。

 

「何よ?」

「うん、変なおじさんがいるんだよ」

「え?うそ?」

私は、じっと目を凝らしてみた。 確かに、そこにはグレーのズボンとTシャツを着たおじさんがいた。 その服装を覚えているってことは、たぶん、季節は夏だったんだろうと思う。

 

 私は、すでにちょっと近眼で、その人の輪郭程度しか見えなかった。 おじさん・・・というのもNがそう呼ぶので、そう思っただけだ。

「ねー、N、私、なんだか見えないよ。何が変なの?」

「うん、なんかおじさんね・・・パンツからチンチン出してると思う」

「えーーーーー?なに? なんで? おしっこ? 幼稚園だよー(大騒ぎ)」

「うーん、なんかね、マタにね、何か擦りつけてるんだよ・・・あれ・・・何かな? うーん・・・」

「こすりつけてる? え?」

「あ! 分った・・・あれ・・・たわしだよ!! おじさん、またにたわし擦りつけてる!! いたいよあれ!!」

「うそ??? たわし? たわしって、あのたわし??」

「そう、間違いないよ、たわしでゴシゴシしてるんだよ」

「そんなに・・・ちんちん・・・汚れちゃってるのかなぁ・・・」

 

 今思うと・・・たわし・・・って多分・・・陰毛だったんだと分るのだけど(笑)。

あの当時は、絶対に「たわし」だと疑わなかった。 翌日の月曜日、学校に行くと、Nは「幼稚園たわし事件」を熱っぽくみんなに語っていた。(それも丁寧に身振り付き「こうやってね!」って。 私までやらされたし・・・とほほ・・・。)

 みんな「変な人だよね、タワシでまた擦るなんてさー」と、違った意味で「変な人」だと思い「たわしおやじには気をつけろ」とまで言い合い、上級生にまで行き渡り。 とても有名になっていた。 たわしオヤジ。

 

 今思うと・・・正確には・・・オナニーおやじだったんだけどねぇ。 ごめんねーみんなー、知らなかったんだよーオナニーっていう言葉自体もさー。

 あっ・・・でも・・・本当に・・・たわしだったとしたら・・・それはそれで・・・コワイ気がする。

 

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