その23 |
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えんこー | |
今振り返ると、あれはたぶん援助交際だったな。 と思えることをした。 そう、高校生の時に。 昨日読んだ「ラブ&ポップ」(村上 龍さんの本)の中に出てきた高校生のように。
と言っても・・・体を売ったわけでも、テレクラを使ったわけでもないです。 あしからず。
高校生のころ、育ち盛りの異常な食欲から、バス停から家までの途中に必ず「アイス」や「プチドーナツ」などを買って帰った。 寄る店は決まっていて、そこは、いかにも「オヤジが1人でやってる近所のパン屋」風のオープンな小さい店だった。 そこのオーナーは当時で60近くのおじさん。 10代だった私は「おじいさん」みたいに感じていた。
店の近所には、県立の女子高があったので、放課後は「女子高生の溜まり場」だった。 私は、バスで遠くの進学校(共学)に通っていて、一人違う制服でその中に進入していくのが毎回ちょっと恐かった。 いや、だって・・・みんな「おじさん」のことを男として見ていないからか・・・凄いんですよ、態度が。 店内にしゃがんじゃって「あっちーよぉ!」とか言いながらスカートをバフバフさせてたりするんだもん・・・。 そんなのが、ちいさい店に7人ぐらいいるんだから・・・ンもう・・・大変。
あれだけオンナノコに囲まれていながら、おじさんは私にとても良くしてくれた。 というか、お金を取らないのだ。 つまり「タダ」。 「ん?」と思いつつも・・・「きっと儲かってるんだろうな」と少しずつ、罪悪感を感じなくなっていった。
夏休みの1日。 同じ学校の親友とそのパン屋にお菓子を仕入れに行った。 おじさんは1人でポツンと店番をしていた。 お盆近くは、部活も無いらしく、女子高のコ達はほとんど学校に来ないみたいだった。 はじめて、おじさんとユックリ言葉を交わした。 そして、おじさんは「これから3人で遊びに行こう」と提案し。 なんだか納得行かないまま、私達がいつもブラブラショッピングする街に繰り出したのだ。 フランス料理→デザートと、とんでもない値段の料理を食べさせられたけど、味なんかサッパリわからなかった。 (この人と何を話したら良いんだろう?)という思いが頭をグルグルしていた。 マックやハーゲンダッツのほうが美味しいやとさえ思った。
でも、ウィンドウショッピングをしているうち、おじさんの存在がかなり薄くなっていく。 そこは「いつも行く馴染みの店」達で、私達はスッカリ私達のペースに戻り、いつものごとく早足で、いつものごとく早い会話で、いつもの順番で店を回ったのだ。 突然、私達から一歩下がって歩くおじさんが、自分の存在を示すかのように「2人とも! 良く聞きなさい! 欲しいものがあるんだったら言いなさい、何でも買ってあげるから」と「あげるから」に力を入れ宣言した。
奇妙だな・・・と思った。 このヒト、何考えてるんだろう・・・と思った。 楽しいのかな?本当に?と思った。
私は最後まで「別に欲しいもの無い」と言い通し、逆に友達は「化粧品一式」と「スーツ」を買ってもらった。
私の手元には、何も残らず、友達の手元には色々なものが残った。
翌日、お礼を言いにパン屋へ行った。 お金をその日は絶対に払いなさいよ! と母から言われていたので。 無理してお金を払おうとした。 その時、おじさんは私の手を両手で掴んだのだ。 暫く、「え?」と動きが止まった。 その両手はユックリと私の手を撫でた。 ゾッとした。 手を引き抜き、お金を投げるようにカウンターにおいて、走って家に帰った。 そのことはなぜか親には言えなかった。
その日以降、そのパン屋へ寄るのが恐くなった。 何か得たいの知れない人という感じがしたのだ。 つまり私には理解できない人になったのだ。 友達と夏休みが終わって顔を合わせた後、あの時の話をすると、彼女はこう言った。 「色々買ってもらったけどさ、なんか、気味悪いおやじだったよね。」(彼女は私が手を握られたことを知らない。)
彼は、お金で何を買いたかったんだろう? 彼は、何が楽しかったんだろう?
村上 龍さんの「ラブ&ポップ」の中にも「売春目的意外」の援助交際の部分が少し書かれている。 これに、結構近いんじゃないんだろうか? 彼らは、お金を出して、私達の「若さ」を賞賛したんだろうか? 自分が確実に無くしていっているものにお金を出したのだろうか?? 「まだ若い子から振り向いてもらえる俺」という立場を得るためにお金を出したのだろうか?
お金で、例えば、体を買って「おれは若いコを自由にしてるんだ」と満足できるのだろうか? その、自分の衰えた体の下で、静かにお金の為に体を横たえている自分よりも余分に「若さ」を持った生き物が、頭で何を考えているのか? 想像できないんだろうか?
後で、余計に寂しくならないんだろうか?
確か・・・桜井 亜美の本の中に書いてあった文だと思うのだけど「人は自分の傷口を他人の肉で埋めようとする、でも、その肉はすぐに腐って落ちる」というのがあった。 まさに・・・それだな・・・と今だと思う。
自分で治せない傷口は、もう、誰も治せないのだし。
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