その31

 

黒いスリップ  

 

 私ぐらいの年代というのは、兆度、過渡期なのかもしれない。 同じ歳の女友達でも、様々な生き方をしている。 ある人は、もう結婚して、小さい子供を2人抱えて、最近一軒家を購入。「60年ローンだよー」と半泣きになりながらチョット幸せそうだったり。 ある人は、「仕事楽しくってサ、男?いるよ、でも、結婚はしたくないね」とか言い切っていたり。

 

 ほんと色々、それがみんな様になってる。

ただ・・・時々気になる事もある。

 

 定期的に、子供アリの女友達と遊びに出るのだけど、彼女が最近変化してきた。 なんだか・・・おばさんチックになってきたのだ。

 彼女といつも、遊ぶルートっていうのは大概決まっていて、買い物をして、新しいレストランでランチを食べて、カラオケに行って。 また買い物をして夕飯&ちょっと飲んで帰宅。 その間に「お茶」をする・・・っていう感じ。 タマにだから・・・、子供は旦那さんが見ていてくれるので、彼女が独身の時代とホボ同じように2人でブラブラする。

 っんが!何かが確実に違うのだ。 初め、これ・・・いったい・・・なんなんだろう? って一緒に歩きながら考えていた。 ハッキリ分れば、相手に伝えるつもりでいたのだけど、「何か?」ハッキリ言葉には出来ないものだったのだ。

 

 2人でカフェに落ちついて、外を見ながら話をしていた。 急に、彼女がボーイさんを呼びとめた「ねぇ、チョット!!・・・」。 その口調で「あっ!」と思った。 彼女の「おばさんチック」の元がなんとなく分ったのだ。

 

 彼女とは高校時代からの友達だ。 あの時も、同じように2人でカフェに座っていた、頻繁に。 で、同じようにボーイさんに声をかけていた。「お水下さい」とかそういう些細なことで。 でも・・・だ。 絶対に「ねぇ、チョット!!」とは言葉を始めなかった。

 必ず「あの、すみません」と言っていた。

 

 ボーイさんと彼女のやりとりが終わるまでまって、彼女に言った。 「ねぇ、あんた最近、婆くさいよ。 言葉遣いとか態度とか。」と。 彼女はハッとした顔をして、暫く考えていた。 そして、こう言ったのだ。

「確かに・・・そうだよね・・・なんかね、最近、怖いものが無いのよ。昔はね、人から見られる自分、っていうのを意識しすぎて緊張していたんだけど。 今、そういうのが無くなってきちゃった。」

って。

 たぶん、それは「恥」とか「自意識」とかそういうものなんだろうな・・・って思う。 それを無くすことは、本人にしてみれば、すごく「楽」な生き方だとも思う。 でも、それで良いんだろうか?

 

「ねぇ、私、そんなにおばさんくさい?」 彼女は心配そうに聞く。

「ううん、凄くじゃないよ、ただ、あんまりイケシャーシャーとしちゃうのは、マズイよね、多分。」

「そうだよね、そういう風にはならないようにしよう、って思ってたのに・・・あーあ。 気がついたらまた言ってね?」

とその話は終わった。

 

 歳は、みんな平等に取る。 嫌でもなんでもみんな取る。 若さはドンドン失われていく。 でも、なくなった部分を埋める人間的な魅力っていうのは必ず補われていく。 他の人はわからないけど。 私は、去年より今、10年前よりも今の自分が好きだ。 そう思いながら生きていたいと思ってる。 ただ、「人から自分がどう見えているのか」を客観的に見るのは、結構難しい。

 自分に甘くなるのは、楽だから。 自意識過剰といわれても良い、自分のことをもっと気にしていたい。 そうすることで・・・少しでも・・・「両手にスーパーの袋をぶら下げたまま痰を吐く」ような「ならんでいる列に横入りしてシラッとしてる」ようなオバサンにならなくて済む気がする。

 

 どうせなるなら・・・魅力的なオバサンになりたい。 高望みなのは分ってる。 でも、目指すのは・・・「存在の耐えられない軽さ」という映画に出てきた、主人公の男性とずっと裏で付き合っていたかなり年上の画家の女性だ。 もう10年以上前に見た映画だけど、彼女のイメージがずっと頭を離れない。

「こういう女になりたい」

強く思った。 今も思う。

 

 最近「黒いスリップが良く似合うな」と言われた。 ものすごく嬉しかった。 ずっと似合っていたい、と切望した。 私は、ピンクのスリップよりも、黒いスリップに象徴されるような女のほうが好きだ。

   

PRE

HOME NEXT