その34

 

シルクのワンピース  

 

 急いでおしゃれをするときに、何気なく選んだワンピース。 グレーのシルク。 スリットから覗く裏地は赤。

 車の中で、布地の手触りを自分で楽しみながら、フッと思い出す。

「そうだ・・・このワンピースは・・・」

 

 これは私が自分で作ったもの。 「明日は彼との初めてのデートだ」と洋服を探して・・・でも着ていきたい服が無かった。 出かけてデパートを回った。 それでも着ていきたい服、着てあなたに見詰てもらいたい服。 あなたの手で手触りを楽しんでもらうための服は見つからなかった。

 家に帰り、以前買っていたシルクを思い出し手触りを確かめた。「気持ち良い・・・」。 しっとりと湿り気のあるような肌触り、でも、手を離した瞬間にそれが幻みたいに消える感じ。

 

 一晩眠らずに、パターンを引き、布を切り、縫い上げた。 

長いスリットから覗く赤い裏地は、私の足を綺麗にあなたに見せてくれるだろうか?

 

 妙な興奮と一緒にあなたに会ったあの日。 特別な日のための、特別なラッピングだったこのワンピース。

 

 今では、あなたと会うことも無くなったけれど。 今では、特別では無くなってしまったワンピースだけれど。 この手触りは、私を落ちつかせてくれる。

 あなたは、この手触りを楽しんでくれたのだろうか? 幻みたいに消えていく感じを。

 

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