その37

 

熱病  

 

 恋のはじまりは熱病だ、熱に浮かされて人は色々なウワゴトを言ってしまう。

 

 一泊4万円以上するようなホテルを予約して「君を安いホテルになんか泊めたくはないんだ。」と。

 1本3万円するようなワインをリストの中から選んで「君の舌にはこれぐらいが良い」と。

 別れ際には、玄関先まで車で送り届けて「夜道は危ないもんね」と。

 雑誌を一緒に眺めては「今度は一緒に海外に行こう」と。

 

 熱病は続かない。 いずれ平熱に戻るときが来る。

 

 「一泊9,800円、休憩2時間5,800円」と書かれたホテルが常になり、

飲み物はドトールの持ちかえりになり、

さよならは駅前で言うようになり、

1人で行った海外旅行の話を楽しそうにするようになる。

 

 すべて、おなじ「あなた」から出た言葉、行動。

 

 別に、罪だとは思わない。

ウソツキだなんて責めたりしない。

ただ、一つだけ・・・

 

 私は、いつもと同じように微笑んで、その変化を見ている。 少し寂しく感じながら。

 

 結局、私は「1泊4万円」のホテルの女では無く、「9,800円」の女だったんだな・・・と。 そういう価値観を植えないで欲しかったな・・・と。

 

 最初から、そんなものは望んでいなかったのに。

 

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