その70 |
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密会のタイミング |
よろしかったら感想聞かせてください〜 |
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その日は、彼の遠距離の彼女がやってくる前の日だった。 ワタシは、いつものようにバス停で彼のコトを待っていた。 「あと5分」 そんなコトをなんど繰り返したんだろう?
約束をしたわけではない、ただなんとなく、いつもその時間になると彼がフラッとワタシのバス停に現れるのが普通になっていた。 「密会だな」 「そうだね」 冗談のように言い合いながら笑った。
その場で1時間ぐらい話しこむこともあったし。 ちょっとお茶を飲みに行くこともあったし。 映画に行くこともあった。
彼は、クラスメイトだった。 一緒に授業を受け、普通に「ばいばい、じゃぁね」と別れる。 ワタシは自分のバス停に向かう。 バス停でバスを待っていると、彼がフラッと来る。 そんな状況が1ヶ月ぐらい続いていた。 週末以外はほとんど毎日。 「どうして?」とかそんなコトは一切聞かなかった。 彼も言わなかった。
ある日、彼が言う。 「来週、俺の彼女が来るんだ」
へぇ・・・。 そうしか答えられなかった。 ワタシの日常になろうとしていた「彼との時間」が、その日からもう無くなる。 そんな現実を真正面から見たくないと思っていた。 現実が目の前に現れてから甘受すれば良いじゃないか。 あと1週間もあるんだし・・・。 そんな風に、色々と考えることを放棄していた。 逃げていた。
1日、1日が、いつもと同じように過ぎていく。 なんだかこのまま何も変わらずに、きっとこのまま変わらずにいくんだ。 そんな希望が心に浮かぶ。 そんな期待はしないほうがいい。 それを打ち消す。
そして、その日。 ワタシは、たぶん、最後になるであろう彼との楽しい時間・・・を眼一杯楽しみたい・・・と彼を待っていた。 泣きたい気持ちなのか? 笑いたい気持ちなのか? 自分でもはかり切れない思いを抱いてそこに立っていた。
「あと5分」
そう思いながら、私の乗るべきバスを何台見送ったんだろう?
いつもの時間、いつも彼が寄る時間はとっくに過ぎていた。
そうか、もう、来ないのか。 1日早く、彼は気持ちを切り上げたのかもしれない。 あ、もしかしたら、気持ちなんて最初から無かったのかもしれない。 全ては、ワタシの錯覚。 幻想。 力が抜けていくような感じがした。 同時に、まだ友達でいられる、という安堵感が襲ってきた。 今日、会ってしまったら、自分が何をやらかすのか? 自分でも想像がつかなかったから。 今日、来ないという彼の選択は、多分、正しいのだろう。 ワタシは、自分の乗るべきバスに乗る。
翌日、彼は彼女とクラスにやってきた。 ワタシもみんなと同化して、今までの1ヶ月間の「あの時間」は存在しなかったように、普通に楽しそうに話をする。 楽しそうに話をしながらも、彼女の表情一つ、言葉一つ、彼女に向ける彼の表情一つ、言葉一つに・・・ザクザクと傷ついていく。 ザクザク、ザクザクと。
しばらくして、傷つきすぎて、無感覚になり、本当の意味で2人を「友達」として見れるようになった時に。 彼と話をした。 彼が、また、フラッとそのバス停にやってきたのだ。以前のように1人で。
ワタシは、極力、彼女のことを話題にした 「どう?彼女、もうこっちに慣れたのかな?」 彼のため、彼女のため・・・というよりは、自分自身の為。 自分に思い知らせるため。 変な期待の芽が発芽しないように農薬を散布するみたいなもんだ。
「そうだな、中々大変みたいだけど、みんな良くしてくれるしな」 そう、普通に会話が進む。 ちょっとホッと気を緩めた瞬間に
「実は、あの日、アイツ(彼女)が来るっていう前の日な。 俺、ここ、来たんだよ」
え・・・。 うそ。 だってワタシはココにいた。 何も言えずに彼の目をジッと見る。 「俺、ここ、来たんだよ。 でも、夜遅くなっちゃってな。 もう、お前、いなかった。」
その日、時間のズレが無く、彼に会ってしまっていたら。 ワタシはどうなっていたんだろう? 彼は? 彼女は? 今、考えてもわからない。 ただ一つ言えることは、私達は「その日会うべきではなかったから、会わなかった」んだろう、という事。
「しかたないね、そういうタイミングだったんだもんね」 そう良いながら笑った。
「密会したかったね」 「そうだな、したかったな」 そう冗談のように言い合った。
その日で、彼と友達以上になるタイミングを逃したけれど。 友達として付き合うタイミングをガッチリ掴んだんだと思う。
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